巨樹を撮り始めてから、ずいぶんと屋久島に通って・・・
ここでは写真にエッセイをつけて、連載していきます。


もくじ

01. 千年の森へ
02. 千年のいのち
03. ナース・ログの森
04. マザー・ツリー
05. 森の主役
06. もうひとつの森
07. 巨岩伝説
08. 天空の花園
09. 森から始まる水の旅
10. 千年の森から
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 そのころすでに巨木のある森や気持ちのいい森を捜して、日本のあちこちを旅していた。
 森を歩くと木々だけでなく、森の底にひめやかに咲く野の花やそこを棲みかとする野鳥の群れに出会う。彼らは誰ひとりとして話しかけてこないが、たしかに何かを与えてくれる。森の中では素直なこころを取り戻し、きれいな水でも浴びたような気分になっている。
 いろいろな森へ出かけたのは、この森の効用がなんにも増して大きかったからだ。

 それと、もうひとつ。最後に訪ねたい森の存在があったせいだろう。
 千年以上の寿命をもつ杉が何本もあり、日本でいちばん古い木が生きている森。ぼくはその森を勝手に「千年の森」と名づけ、頭の中に幻想的な姿を描いていた。
 その森はおそらく、ぼくが感じ取ってきた森の効用を最大限に持ち合わせている。だから最後までとっておきたい。行きたいのを我慢して、いろいろな森へ行ったあとでゆっくりと味わいたい。そんな森だった。
 ほかの森から戻るたび、千年の森へのあこがれは強くなった。行かないことで、森はどんどん頭の中で理想化され、あげくのはてに千年の森のある島は無人島の像まで結んだ。 あこがれが高みを増すほどに、早く行きたいという願いも強くなった。
 そうしているうちに、森が与えてくれるものが何なのか、すこしづつわかり始めた。
 いまでは、最後までとっておきたかった森は逆に森歩きの原点になった。それ以来、ぼくは世界の森を訪ねはじめ、日本の森もあらためて歩きはじめているからだ。
 ほかの森へ出かけては千年の森へ帰り、また違う森へ行く。
 帰るべき森となったのである。

 地球の反対側の森ではじめて知った自然の法則は、千年の森にも存続し、山、川、海、すべてが森と繋がっていた。なにより、その自然と深い関わりをもって暮らしている人々がいた。
 日本中の気候が詰まった千年の森の島。北海道から沖縄まで、すべて自然を含んだ島の森を通して、ぼくは人も含めた自然全体からのものを受け取る。地球という星に続いてきたまだ知らない法則をみつけに出かけては、千年の森でその関係を解く。さまざまな自然が凝縮された島の森はむずかしい繋がりをやさしく説き明かしてくれる。

 千年の森はこれからも多くのことを気づかせてくれるだろう。
 ぼくは今日も千年の森へ帰る。
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