森は視界をすべて緑に染めた。後頭部まですっかり緑に埋め尽くされたようにしばらく動けない。まぶたを閉じても脳裏に深い色が刻まれている。

千年の森は緑に支配された森。

ようやく慣れた目で見回すと、ほかの森と異なる現象があるのがわかる。
枝を広げいきいきと立っている木のほかにある、いのちを終え横たわった倒木や、大きな切り株。それらの周りをもびっしりとコケが覆っている。この倒木や切り株はほとんどが杉。切り株は島津藩時代から始まった伐採の痕跡だ。


じっとたたずんでいると、これらの上に芽生えた小さな杉が目に入る。そこには天からの贈り物のように光がさしている。進んでいくと、かつて倒木や切り株上の新しい生命だった木に会った。倒木を大地の代わりとして育った木は、定規でもあてたように一直線に並んで大きくなっている。規律正しい小学生のように。そして、切り株を故郷にした木には根元の方に切られた跡がかすかに残っている。

物語のように、この森の中で行われてきた生命の次代への受け渡し、輪廻のような繋がりがはじめから終わりまで見える。ぼくが生きていく時間はどう見積もっても百年に満たない。だが、そういう存在である自分が千年の森に続いている途方もなく長い歴史を見ている。ほかの森では感じたことのない時空の感覚だ。


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