隆々とした筋肉。ときに力コブさえも見せる何千年のいのち。自分より大きなもの、はるかに偉大なものに対する動物的本能のなせる技か。歩み寄っていくと最初に恐れがやって来る。

だが不思議なことに、その気持ちに耐えて木のそばにいると離れがたくなる。母なるものに抱かれているようなやすらかさ。そういう具合で、いつも千年の森の杉の前で長い時間を過ごす。
それぞれ固有の名前を持っている杉。千年の森と名づけたのも彼らの存在があったからだ。


 しかし、ぼくはこの森で彼ら以外の木にも魅了された。滑らかな木肌を誘惑的にしならせたヒメシャラ。天に向かって巻いていくかのように立つハリギリ。杉やツガ、モミなどの巨木に抱きついて太くなったヤマグルマ。生きている木だけでなく、土埋木と呼ばれる杉の切り株や倒木とそれらにびっしりとついた無数のコケ。これらのいのちの勢いに圧倒されたのだ。

 さらにじっとたたずんでいると、低木たちのにぎわいも見えてくる。リンゴのような実をつけるリンゴツバキ。アジサイのような白い花をつけるノリウツギ。マユミ、ヒサカキ、ユズリハ、ナナカマド、サツキなど。イスノキ、タブノキ、バリバリノキなど、ほかのたくさんの種類の木のたくましいいのちも感じる。


歩くたびに森は違う素顔を見せる。以前歩いたときには見えなかった花が咲いていたり、実がなっていたり、やって来る鳥にも種類があった。

森に生きるものすべてに会いに、ぼくは今日も千年の森へ行く。


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