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レバノン杉は 未来を知っている



かつて王家の谷で発見されたツタンカーメン王
の金張り人型棺は、
この樹を彫り込んだものである。
また、ギザのクフ王の墓に収められていた、
長さ43mにもおよぶ太陽の船も
この樹で出来ている。
そして世界最古と言われている
サッカラの階段ピラミッドでは、
崩れかけたピラミッドの中から
この樹は姿を見せている。




これらはすべてレバノン杉でできていたのだ。
 レバノン杉はマツ科の針葉樹で、まっすぐに
伸びるこの樹は、高さ40m、幹周り10mにも
なる長身でたくましい樹に育つため、
大理石建築にはかかせない梁材であり、
腐敗や虫に強いという
実用性に大変優れた用材だった。

 しかし、レバノン杉にとって悲劇だったのは、
生育する地域が最古の文明と言われる、
エジプトとメソポタミアに挟まれた
土地であったこと。おまけに、
もともと森の少ない地方に
囲まれていたことである。
文明は森を伐り出しながら繁栄したのだ。





若木の時は、一見すると
白か偽のように見える。


荒涼とした大地に
ポツンと残る
小さな森


そして、レバノン杉を切り尽くしたときに、文明は化石燃料を失い、また伐採によって森の表土が流れることによって、
港が埋まってしまうなどの被害が有り、そして、この地の文明は滅びてしまったのだ。
現在のレバノンには「アルゼラブ(神の杉の森)」と呼ばれる小さな太古の森が、わずかに1ヶ所だけ残されている。
7世紀、独自の信仰を持つキリスト教マロン派が、迫害から逃れ周囲からは容易に入れない聖なる渓谷、
ガディンシャ渓谷に隠れ住んだ。敬虔なクリスチャンが守る最後のレバノン杉の森はここにある。
荒涼とした風景の広がる中、直径にするとわずかに300m程。
しかし、樹齢数千年の巨樹が約30本、さらに樹齢6000年、直径5m、高さ35mのレバノン杉の巨樹が一本残っている。

 

そして、村人たちは苗木をつくり、
神の杉の森の周囲に若い森を育てはじめている。
 レバノン杉の巨木は人類の破壊と暴虐を見続けてきた。
樹齢6000年のレバノン杉は、
この大地をレバノン杉でおおいつくことの出来る日を、
そして人とともに共生できる明日を夢見ていることだろう。
 彼は僕たちの未来を知っているに違いない。


芽が出だばかりの、レバノン杉の若木


 
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