映像が語った「千年のいのち」 | ||
保健体育教室 井上則子
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映像は静かに、私達に「いのち」を語り始めた。 屋久島の木々、その森を進んで行くと足下には緑色の苔、芽生えたばかりの小さな木、 道に横たわる苔むした大きく太い木、枝の隙間から漏れてくる光・・・ 吉田繁氏は巨木を中心に世界各地の森を取材し、その姿を写真に撮り続けている新鋭の写真家である。数年前、朝日新聞に載っていた吉田氏の写真に「いのちの息吹」を感じた私は、すぐに彼のホームページ(http://plaza10.mbn.or.jp/~tree)を開いた。画面に次々と映し出される世界各地の巨樹たち。パソコンの前にいながらにして、木々の息吹が感じられる。夏の暑い日、木陰に入るとひんやりとして緑の匂いがしたこと。緑の中を歩いていると、その湿った香りに心が穏やかになってくること。様々な想いが心の中をよぎる。しかもその想いは、自分の五感、身体全体で感じ取ったものが根底にあることに気づかされる。 写真家吉田繁氏の映像を公開講座「いのち」で見たいと思い、講演依頼を始めた。彼のホームページにアクセスする。そこからメールアドレスに入り、全く面識のない吉田氏に講演をお願いする。21世紀、まさにインターネット時代ならではの講演依頼であった。そして数カ月後、世界各地の巨木の映像が収められているパソコンを持って、彼はさらりと津田塾へ来てくれた。武蔵野の木々に囲まれたキャンパスは、いつの間にか桜から緑の季節へ移り変わっていた。 映像を見る前に吉田氏は24.2mヒモと、51mあまりのヒモを私達に見せた。この24.2mのヒモは、日本一幹周りの太い「鹿児島の大楠」と同じ長さで、同様に、51mのヒモは世界一幹周りの太い木と同じ長さであるという。これが講演会場のどれ位になるか拡げてみよう、と彼は言った。日本一太い木は会場のほぼ半分を占める位の太さであった。そうなると大楠はどれ位大きな木なのだろうか?私達は自分の身体感覚をもとに、まだ目にしたことのない日本一幹回りの太い大楠を想像した。そしてその木が発する香りを思い浮かべては、深い呼吸をした。さて、世界一太い木はどうだろう?会場の教室を飛び出して、廊下を回って戻ってくるほどの太さであった。世界一太い木は一体どんな様相をした木なのだろうか・・・ 木の側に映し出された人間や建物の大きさを見て、私達はその木の大きさを想像した。うっそうと繁る葉を見て、私達はその木の魂を感じた。ねじれ横たわる大きな木々を見て、私達は生きていくことの厳しさを思った。映像に映し出された巨樹たちは、何千年も生き続けてきた「いのち」の神秘を私達に語りかけてきた。 人間をスッポリと包み込むような英国のオーク、奇妙な形をしたマダガスカルのバオバブ の木、高層ビルのようにそびえ立つ台湾の檜、宝石になったアリゾナの木、そしてカリフ ォルニア州東部ホワイトマウンテンの過酷な地に、4000年以上も生き続けてきた世界一長 寿の木々・・・ 映像は静かに、そして力強く私達に「いのち」を語り終えた。 |
公開講座「いのち第。部」
吉田繁氏講演(2001年4月25日) |
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