場 所 : 岩手県軽米町
東北線二戸駅から久慈行きバスで約50分横枕下車、徒歩約5分。
かつらは山地の谷筋によく見られる、雌雄異株の落葉大高木。 春にハート型の葉をつけ、秋には翼のある実をつける。 「古屋敷の千本桂」は、推定樹齢560年の老巨木。 無数の枝や「ひこばえ」に、囲まれるようにして立っている。 |
「桂」って、名前のきれいな響きとは対照的に、見た目は結構「えぐい」というか、すごい木なんです。ボウボウに枝が生えていて、気持ち悪いぐらい。この「古屋敷の千本桂」も、そんな感じでしたね。 僕は巨木を見に行くと、パカッととって帰ってくるというよりも、いつも2時間ぐらいその場にいるんです。用もなく、そこの空気を吸ってくる。やっぱり、100年単位で生きている巨木の雰囲気を味わうには、時間がかかりますよねえ。
秋になると桂は、砂糖を焦がしたような独特の匂いをだすんです。おいしそうというか懐かしいっていうか、素朴な匂いなんですよねえ。そんな匂いをかぎたくなって、葉が落ちるころに桂を撮りに行ったことが何度もあります。 「古屋敷の千本桂」は、小高い丘の中腹にある町の外れにあって、道を曲がると斜面の下の方に突然ボッと立っているという感じ。遠くから見えるわけじゃないから、見つけるのはちょっと大変かもしれないですねえ。ここは町の中だからまだいいんですが、山中で「目指す木」探すのはとてもたいへんで、僕はよく山の中で迷います。 |
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そういえば山に迷うということでおもしろい話があってね。 屋久島で聞いた話なんですが、そこは島で一番安い宿なんだけど、初めて出会った早稲田と慶應と明治の学生が縄文杉を見に行って、あそこは木まで大分歩くでしょう。途中天候が悪くなって迷ってしまい暗くなっちゃたんだそうです。宿のおやじが心配して探しに行くととんでもないところで見つかるんですよ。どうしたって聞くと早稲田のやつは「前に進もう」と言い、慶應のやつは「さっきの山小屋に戻ろう」と言い、明治のやつは「動いちゃ危険だからここに残るって」言って、もめてたんだって。それじゃかえって来れないよ。 (文書構成--海野雅彦) |